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 書店・出版界の名物男がいわきにやってきた。茶木則雄さん(49)。ミステリー専門店を流行らせたかと思ったら、ライターに転身し、山のような書評やエッセイをこなす。そうしているうちに書店界に舞い戻り、いま日本一の書店づくりに燃えている、というのが、茶木さんの簡単な略歴。4月中旬から、いわきニュータウン内にある「ときわ書房いわき店」の店長(千葉県船橋市にある本店・聖蹟桜ヶ丘店の店長も兼任)として、采配を振るっている。茶木さんに書店経営の考え方などを聞いた。


 茶木さんは大学時代に推理小説研究会に所属していたほどのミステリー好き。大学に行かなくなったあとも、本が好きだったことから書店業界に身を置き、問屋に仕入れに行ったりしていた。そのうち、知り合いを通じて「何をやってもいいから店長になってくれないか」と声がかかり、飯田橋にミステリー専門店をオープンさせた。そのつくり方で特徴的だったのは、ミステリー関係の本で、ないものはない店にしたこと、さらに置かないものは置かない、という思想を貫いたこと。当時はバブルに向かう右肩上がりの時代だったうえに、ミステリー界も才能のある新人が山のように現れ、活気があった。そこで茶木さんは月に1回、出版関係者を集めて読書会を開き、メンバーの協力を得て『本屋さん読本』などもつくった。
 そうしているうちに原稿執筆依頼が多くなり、10年をひと区切りとしてライターに転身。多いときで連載を17、8本抱え、月に締め切りが30本もある、という生活が6年続いた。そんななか、あるトークショーで京都、大阪、名古屋を回り、現場の書店員と話す機会を持ったことが、茶木さんを書店回帰に向かわせることになる。「みんなまじめに本のことを考えている。書店はやっぱりいい。自分は評論家なのか書店員なのか」と考える機会があったところに、ときわ書房の話があり、転職することにした。そのとき45歳。自分としては、転職ぎりぎりの年齢だと思った。
 ときわ書房は千葉県がベースの書店で、現在14店舗。3カ月の研修期間にトイレ掃除などをしながら、「ときわ書房を日本一の書店にするにはどうしたらいいか」というアイデアレポートを何回か提出、本店の店長になった。最初に手をつけたのは、品揃えのコンセプトの徹底。本好きな人が「何か面白い本はないだろうか」と探しに来るような書店をめざすために、学習参考書、人文書、児童書などを切り、コミック、ヤング、文芸、翻訳関係に力を入れた。さらに、早朝からコミックを販売したり、店先でマイクを握り雑誌の創刊号を売ったり、スタッフが選ぶ「夏の文庫100冊公式ガイドブック」をつくったりした。もちろん、それを探して店頭に並べる作業もしなければならず、「切るものは切る、ないものはないようにする」精神の面目躍如といえた。
 いわき店のてこ入れ計画は昨年暮れから。利益の出ていない店はクラッシュし、新しい出店に切り換えよう、という方針が出され、視察に来た。いわき店は、クラッシュか継続か微妙だった。しかし、「ニュータウンの中と立地条件が良く、人口もあって、そこそこの成績を上げていた。もったいない。ここを再生してこそ、日本一の書店がめざせるのではないか」。そう茶木さんは思った。
 すぐ改装準備に入り、すべての本を返品した。そこで切るもの、加えるものを決めた。新しい店を出すのと同じ発想で、あまりジャンルに偏らないニュートラルな店としてスタートを切った。いわき店は、そこそこの売り上げを確保していたので、戦略もなければテコ入れもされていなかった。レンタルコーナーも書籍もひどかった。書店は、利益が出ているうちはいいが、だめになり始めると加速度的に売り上げが落ちていく。それを打破するには、お客が求めているジャンルの充足率が高いことが必要で、いま、それをじっくりと見据えている。感じるのは、新聞の書籍広告の切り抜きを持って来店する人が多いこと、一般向きの本ではない凝った本を買うコアな客が多いことだという。
 茶木さんのモットーは「やりたいことがあるのなら、まず売りをつくってから」。いくらこだわりがあっても売り上げを確保しないと話にならない、と言う。それにはどんな本が売れるのか、売れているのかをきちんと分析し、売れる本をそろえる。無言の声に聞き耳を立て、対応していく。すると、その店その店の品ぞろえは当然変わって行かざるを得ない、とも言う。そして最後に「ミステリーは、いま冬の時代。特に翻訳ミステリーは見るも無惨な状態。そして、ミステリーはあまりに拡散してしまった」と、ミステリーの現状を話してくれた。



 茶木 則雄(ちゃき・のりお)
 広島県庄原市生まれ。青山学院大中退後、書店業界に就職して書店経営のノウハウを学び、1986年に東京で初めてのミステリー専門店「ブックサカイ深夜プラス1」を開店。「本の雑誌」連載をはじめ、書評家、エッセイストとしても活躍し、10年後にフリーライターに転身。2002年に書店の現場に復帰し、現在はときわ書房本店・聖蹟桜ヶ丘店・いわき店の兼任店長。




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