ミステリー作家・夏樹静子さんの講演会が5月13日午後2時から、パレスいわやで開かれる。演題は「心は無限のミステリー」。自らの闘病生活のこと、ミステリー作家として日ごろ思っていることなどを話す予定だ。今回、講演会を企画したのが、夏樹ファンの医師石井敦子さん。石井さんは夏樹ミステリーの魅力を、作品全体を覆っている気品、正統なトリック、行間ににじみ出る叙情だという。石井さんに夏樹さんとの出会いなどを聞いた。
石井さんが夏樹さんの作品と出会ったのは、25年ほど前。学会先で空き時間ができたため、ぶらりと本屋に寄って文庫本の『天使が消えていく』を手にしたのがきっかけだった。底流を流れる気品、哀感、そして母性のほとばしり。この、夏樹さんの文壇デビュー作には、石井さんを魅了し、惹きつけるさまざまなものがあった。以来、夏樹ミステリーのとりこになった。
そもそも、石井さんの興味は外国小説だった。コナン・ドイル、モンゴメリー、ロマン・ロラン、アガサ・クリスティー…。そこには、洋に対する憧れがあった。しかし、読んでみると翻訳本特有の違和感がどうしてもぬ
ぐい去れず、行間を読めないもどかしさを感じていた。ところが、夏樹さんのものは違っていた。読んだあとにしっとりする情感があふれ、人間が生きていくことの哀しさが表現されていた。
日本人であること、女性であることの感性や繊細さがすみずみまで行き届いていた。しかも、一流のトリックや社会性を散りばめ、読者を夢中にさせる。作品を読めば読むほど「日本のアガサ・クリスティー」と呼ばれる意味がわかった。石井さんは自分の思いを伝えたいと思い、福岡在住の夏樹さんに手紙を書いた。
やり取りが何回か続いたあと、九州で学会があり、夏樹さんの家を訪ねた。12年前のことだ。夏樹さんは想像していた通り、気さくで優しく、大きな女性だった。さまざまな話をした。そして、そのころ椅子に座れないほどの激しい腰痛に悩んでいたことを、あとで知った。
夏樹さんが書いたものによると、原因は心因性のもので、診断は心身症。締め切りに追われる作家という職業が、潜在意識に悲鳴を上げさせて起こった病気だった。医師は言った。「夏樹静子の葬式を出しましょう。まずは主婦・出光静子に戻るんです」。夏樹さんは、1年間の入院・休筆の末、作家活動に復帰することができた。
石井さんの夏樹作品ベスト3は『天使が消えていく』『第三の女』『そして誰かいなくなった』。特に『そして…』は、タイトルからもわかるように、真っ正面からアガサ・クリスティーに挑んだ作品で、夏樹さんのプライドをが感じられる、という。今回の講演会の前ぶれとして「夏樹静子展」を開くことを決意。インターネットなどで夏樹さん関連のものを集め、4月8日から14日まで、平サロンで展示した。
残念だったのは、本が2冊見つからなかったこと。それは『星の証言』(徳間書店・昭和52年刊)と『ひとすじの闇に』(集英社・昭和59年刊)。「自分は決してコレクターではないが、ここまで揃うと悔しい。コレクターの気持ちがわかった」と話す。
夏樹静子講演会は参加料2,500円。問い合わせは、平サロン(25―9154)まで。
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夏樹 静子
なつき・しずこ 1938年、東京生まれ。慶応大学英文科在学中から文筆活動をしていたが、結婚を機に筆を置き、約4年間、主婦業に専念。長女を出産後、再び書き始めた。「日本のアガサ・クリスティー」と言われ、40代に全10巻の全集を出版。50代初めには『第三の女』でフランス犯罪小説大賞を受賞し、半ばには3年間、心身症に苦しみ、その体験を『椅子がこわい』にまとめている。 |
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