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画・松本 令子  

 新妻 和之

 『アルプスの少女ハイジ』とその作者ヨハンナ・スピリのことを、大越章子さんが393号の「ストリートオルガン」で書いていらっしゃいました。その『ハイジ』が出版された27年後、ルーシー・モード・モンゴメリによる『赤毛のアン』が出版されました。

 さて、一昨年、99歳で亡くなった母の生前、毎日就寝前の30分間、母に『赤毛のアン』を読んで聞かせました。
 当時、母は市総合図書館の大活字本を次から次と貪るように読んで1日を過ごしていました。残されている人生、1分1秒も無駄 にしないという覚悟さえ感じられました。全10巻を読了するまでにどれほどの期間を要したのか思い出せませんが、柔らかい微笑を湛えながら息子の朗読を聞いてくれる母の姿がそこにはありました。
 大正生まれの母がどこまで理解していたかは分かりません。しかし、つまらないとの不平は聞かれませんでした。母は母なりに物語に没入していたのだと思います。
 『赤毛のアン』は、神様への祈りすら知らなかったアンが、心の成長と共に神様への信仰を育んでいく物語でもあります。死期の近づいている母には、アンの信仰の成長に何かしら感ずるものがあったのかもしれません。

 私が『赤毛のアン』シリーズを読み始めたのは中学1年のときで、何があの頃の自分を夢中にさせたのだろうかと考えると、アンが自らの将来を道に譬えてマリラに語った言葉(第38章)に、心が熱くなったことを覚えています。
 「今はそこに曲がり角ができたんだわ。そこを曲がった所に何があるか知らないけど、最上のものがあると信じようとしているの…」
 そして、私自身も五里霧中でそのように歩んできたように思えます。
 私たち老夫婦はマシュウとマリラの年齢となりました。8年前に退職を機に飼い始めたチワワを、語尾にeのつく「アン」と名付けて生活を共にしてきて気付くことは、マシュウとマリラとは実は私たちなのだ、この「アンちゃん」こそ私たち老夫婦にとっての「赤毛のアン」なのだということです。
 アンがグリーン・ゲイブルズに運んできた驚き、困惑、喜び、慰め、平安、それらをアンちゃんが我が家に運んできている、その恵みに感謝する毎日だからです。
 この穏やかな日々にもやがて曲がり角が待ち構えているのでしょう。「その先の道がどんなふうに続くのか」、それを楽しみに、生かされている今このときを大切に生きていきなさい、ということなのでしょう。68歳となった今も学ぶことばかりです。

(いわき市郷ケ丘在住)


 

  今号の特集は、トリチウム汚染水についてでした。そのなかで福島県の内堀知事はトリチウムが入った汚染水を流すことに対して肯定的な意見を述べ、「トリチウムのことを理解してもらう努力をすべき」と、つるりとした顔で言いました。それは原発事故で苦しんでいる福島県民の代表ではなく官僚の顔そのもので、「流すことが前提であとは風評被害」という既定路線が見えました。これでは県民の盾になりません。

(編集人 安竜昌弘)


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