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小さな音楽会


 ここ5年ほど、4月25日に近い日曜日には東京へ出かけている。その日は詩人の草野天平さんの命日で、夫人の梅乃さんが小さな音楽会「詩と音楽の集い」を開いている。開会はアフタヌーンティー前の午後2時。街に漂う薫風の気配を感じながら、会場へ向かう。
 会場は梅乃さんが教鞭を執っていた学校の講堂だったり、荻窪の小さなホールだったり。梅乃さんの体調から、昨年からは目黒の自宅マンションで行われている。仏壇とピアノのある和室がステージ、隣のリビングに椅子を並べる。ステージと客席の距離はわずか数メートル。とても贅沢な音楽会だ。
 バイオリンとチェロ、ピアノの三重奏。それに天平さんの詩と短文、梅乃さんが書いた「クリスマス・イヴ」が朗読される。天平さんと梅乃さんが愛した音楽と、言葉のコラボレーション。合間に曲の紹介やエピソードが語られ、天平さんの世界にふれて、2人が過ごした時間を共有する。

 梅乃さんが天平さんと出会ったのは昭和24年のクリスマス・イブ。教え子で、当時、俳優養成所の1年生だった宮崎恭子さんと出かけた「歴程詩の会」でだった。「クリスマス・イヴ」にその時のことが記されている。
 歴程同人に面識はなく、だれかの紹介でもない2人は再三ためらった後、扉を開けて奥の座席に腰をおろした。気がつくと、前方やや中央のテーブルに天平さんが座っている。「あの方が天平さんね」。梅乃さんが小声でささやく。宮崎さんは目をくるくる廻してうなずいて笑う。
 その後、天平さんは比叡山・松禅院で生活を始め、梅乃さんと結婚。昭和27年に天平さんは亡くなり、2人の結婚生活は2年足らずだった。

 天平さんが亡くなって53年が過ぎた。しかし梅乃さんの生活はいまも天平さんとともにある。静かで穏やかで、透明な日々。その中で音楽会の日は特別な日だ。じっと三重奏、朗読に聴き入る。その人生、姿に愛することの深さを感じる。
 「それでは、また来年お会いしましょう」。演奏者があいさつする。会場からは「アンコール」の声。天平さんと梅乃さんの愛唱歌が演奏され、音楽会の幕は降りる。それからアフタヌーンティーの時間に入り、久しぶりの面々としばし歓談。温かで豊かな時間は、梅乃さんとの握手で締めくくられる。

 帰り道、駅までアンダンテのリズムで歩く。




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