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 こ〜いは みじか〜いゆめのようなものだから〜(ものだけど、かな?)。「みんな夢のなか」の歌詞がふいに口をついてでた。なぜいま、みんな夢のなかなのか。ふたたび巡ってきた温暖な季節を鼻先につきつけられ、妙に間延びした気持ちになってのことなのか。
 箍がはずれたようになった身体をずるずると3月まで引きずり、4月、満開の桜吹雪のなかでしずかに散ってゆく、はげしく散ってゆく。だからみんな夢のなか。
 そんな幻影がぼくを通りすぎたのかどうか。いや、それもこれもみんな春のせいにしておこう。

 新聞の月刊誌の広告欄に、じぶんの箪笥の引きだしをあけるとこぼれ落ちてきそうな、蚊帳、縁側、ちゃぶ台、押入れ、といった言葉の群れを見つけた。「消えた『昭和』」という企画のなかで作家たちが思いの丈を述べた、いまでは何処かへいってしまったり、いまはない物たちの名前である。
 さらに、蠅取り紙、御用聞き、と続いてゆき、これら濃厚な言葉たちの連なりに促されるように、子供のころから熱をだして寝込むことが多かったぼくに、氷嚢、水枕、体温計といった言葉が、日光写 真のように浮かんできた。
 氷嚢。
 あのクラゲのように永遠の不安定の底で、少年のぼくは熱が去ってゆくのをただひたすら待ち続けたのだった。ときに額からすべり落ちるその軟体動物を掬いあげては元に戻し、落ちては元に戻す繰りかえしは、淡い眠りを誘った。
 水枕(欠き氷を入れれば氷枕)。
 これはむしろ、永遠の不安定性のぼくの底で、ただひたすら熱の去るのを待ち続けるもうひとりのぼくのようで、病後、洗われ逆さに干されたその姿は、ぼくの抜け殻のようでもあった。
 水銀体温計。
 あんまり噛むと壊れて、水銀で聲がでなくなるよと母によくいわれた。だからいつも唇で柔らかく包むようにして熱を計った。でもなにかの拍子に体温計が割れ、なかの水銀が畳のうえにころがり、指先で摘もうとするのだが、おおきな粒はさらにいくつもの小さな粒となり、また摘もうとすると、さらに小さな粒となりー。さらに、

 嗚呼、それがいまでもずっと、続いているようだ。        

(詩人)





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