福井県若狭湾に面する小さな漁村、世久見(せくみ)は漁師の平均年齢が37歳。福井県平均が65歳であるから、その異常な若さは驚愕。そんな世久見の朝は定置網の漁から始まる。午前2時から動き始め、7時に帰港する。普通
の漁師ならここで仕事は終わるのだろうけれども、それから近隣の中学生の体験学習を地元の観光協会との連携で引き受け、子供たちを船に乗せて、蛸カゴ揚げを体験するために再び船を出す。ほとんどの漁師の家は民宿を営んでおり、釣り客なども受け入れている。このほかにも、個人で潜って、アワビなどを獲ったりする。海の魅力を最大限に活用している町は、若手への代替わりがうまく進行している。
海の恩恵で経済的に自活をしていくには、海にある魅力を陸に伝えるために、何度船を乗り降りするかである。海の中にいる魚は、そのままでは経済的価値はないが、陸に上がった魚は価値が生まれる。陸にいる人を海に連れて行くと、身の回りの風景が一変し、リアス式海岸の海辺にそびえたつ山を今さっきまで陸で見ていた時は、ただ単なる木が茂った山だな、としか思っていなかったのが、海の上から船に揺られて海面
から立ち上がっていく海岸線の延長線上の山をみると、その形が浮き上がり、海に浮かぶ島に人がのっかっているんだなあと思う。
視点の起点を陸から海と変えただけで見え方が異なってくるのである。その見え方の違いの価値の変換をさらに経済に変換していくことに前向きな姿勢が、平均年齢37歳の漁村をうんでいるのであろう。
そんな世久見の村に私が立ち寄ったのは6月7日のことであった。朝7時から桟橋に停泊している朝顔の種の形をした船の前で絵を描いている女の子がいる。その傍らで漂着物にきりで穴をあけてひもを通
してモビールらしきものを作っている男の子がいる。30分ほどしたら2人は走って小学校へ行った。それと入れ替わりに岐阜県根尾から来た中学生24人が体験学習で漁船に乗って港を出ていった。
1時間ぐらいして帰ってくると、中学生たちも種の形をした船の前で、世久見の記憶をそれぞれ絵にしたり、形にしたりし始めた。「ウミノムコウヘ」と書かれてある宝箱にそれらを詰め込んで種の形をした船(TANeFUNe)に積み込んだ。そしてオカリナで「ふるさと」を演奏して岐阜に帰っていった。そんな不思議な時間が流れた漁村の朝でした。
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