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水深20mの海底に煉瓦の山がある。その数はおびただしく数千個。場所は瀬戸内海の香川県の粟島の沖に浮かぶ周囲500mほどの小さな島、二面
(ふたおもて)島の北東の海域。この海域は地底の起伏が激しく、船が頻繁に座礁
する場所として評判である。瀬戸内を航行する船が座礁
する度に、粟島の人たちは救助に向かっていたがあまりにも多いので、「二面
島の行政区域を隣の島に」という話が、時折出るという。
この煉瓦の山については、粟島の漁業長の浅野さん(80)の話から始まった。私が企画している「瀬戸内海底探索船プロジェクト」で粟島を訪ねた折に「ここの海には煉瓦船が沈んどるぞ」という話を聞き、浅野さんの案内で早速潜ってみた。
瀬戸内の海の透明度は決して良くはない。潜るポイントがずれると、煉瓦には辿り着けない。当然船の上から見えない。「このあたりだな」と、船の錨を下ろす。GPSの計測ポイントになるようにブイに重りを付けて海底までロープを下ろす。私はそのロープを頼りに海底に向かって潜っていく。見えるのは白いロープだけで他は何も見えない。水深が深くなればなるほど暗くなり、ますますロープだけが場所確認の頼りの綱である。
潮の流れもあり、ロープを持っていないと知らない間に沖に流されてしまいそうだ。そんな中でロープを手繰りながら、耳抜きしながら海の底へと沈んで行く。装備器具の水深を示す数字が20mになったその時、突然物体が目の前に現れた。ゴツゴツとした海底かと思いきや、全てが煉瓦であった。こんもり山になっている。
ブイの綱もとは山のてっぺんに位置していた。「漁業長ピッタシです!」。この煉瓦の山を発見するには浅野さんともう1人というか、もうひとチームの協力が必要であった。そのチームとは「水中考古学研究所」という方々である。海底での計測や作業の指導をしてもらいながら進められて行く「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」である。
煉瓦を船にあげてみると煉瓦には刻印があった。「?」の刻印は何を示すのか、この船はどこからきたのか?
まだ謎である。水中考古学研究所の理事長の吉崎さんが言った。
「この煉瓦には持ち主がいたわけですから拾得物として警察に届けましょう、3カ月たって持ち主が現れなかったら日比野さんのものになります」
「なるほどね」と感心していると、浅野漁業長が言った。
「海の中に潜ったのに、アワビとかサザエとか捕ってこんかったのか、ぎょうさんあったやろ!」
そうでしたね。まあ海の中には宝が眠っています。
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(アーティスト) |
※紙面に掲載される画像はモノクロになります。 |
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