種は記憶を運ぶ乗り物のようだ、種は船のようだ。そんな言葉が浮かんだのは2007年、金沢でのことだった。地域と地域、人と人を繋いでいく明後日朝顔プロジェクトを2003年から新潟で展開し始めてから5年目のことだった。今年は10年目とな
種は10年かけてエンジン付きの船になった。物事が変容していくには、「力の作用」が必要だ。生命体が進化していくように、事柄もその時空間に適応しながら変貌していく。その時に必要な力は「想像力」と呼ばれる。「〜みたいだなあ」「〜になるといいなあ」という「力」。今ここにはないけれど、あることを想像する「力」がないと、物事は動き始めないし、ものは生まれてこない。
5月19日に舞鶴港を出港し、新潟港を目指す。7月7日には富山県氷見港に入港した。TANeFUNeと名付けられた種の形をした船は、これまでに21の港に立ち寄り、その土地での人々との記憶を積み込みながら航海をし続けている。陸上で移動すれば30分のところも2時間かけて7ノット(時速約14km)で波を超えて、舵を切りながら風に吹かれながら進んでいく。海の向こうから港に入ってくるTANeFUNeは港の人々に「想像力」を沸き起こさせる。氷見港には地元の漁師さんや大工さんが作った種の形をした浮き桟橋が出来上がっていた。事前にTANeFUNeのことを知り、氷見港での迎え入れ方を氷見のみんなで考えて、「こんな迎え入れ方ができたらいいなあ」という力が生み出した産物なのである。
種に積み込む記憶もあれば、種が積み下ろしていく記憶もある。それぞれが時空間の中でどのように変容していくのかは具体的には想像しきれないけれど、「それぞれの土地柄、人柄に合わせて変容していくといいなあ」という「想像力」はある。TANeFUNeという記憶装置。TANeFUNeという想像力スイッチ。TANeFUNeというネットワークが航海の中で姿を現してきている。船を動かしているのはクルーであるが、クルーはTANeFUNeにより動く力を与えられ、TANeFUNeは港で出迎える人、見送る人により動かされている。
8月6日に新潟港に入港するころにはどんな姿になっているのであろうか?
確実にわかるのは、寄港した人々に渡してきた朝顔の種はきっと芽を出し、弦を伸ばし、花をつけているであろうということ。あとは波と風をしっかりと受け止めていくことにより、明後日の姿に変容していくのであろう。
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