河原で過ごすのが好きだった。50センチくらいの丸くて、いろいろな形をした石がゴロゴロしている長良川の河原は流れの強い川で、泳ぎ疲れた体を横たえるには、凸
凹していて一見向いてなさそうだが、不思議と体の線に合わせて、ピッタシはまるポジションが必ずあるのである。そこはなんとも居心地の良い石ざわりと石温度なのである。素肌を石にくっつけて、川の流れの音を聞きながらウトウトすると、水面
に反射した太陽の光がもうひとつの世界へ誘ってくれる。
そんな経験ができる場所が東京の六本木に出現した。「素肌でもうひとつの世界へ誘ってくれる六本木!ですって!」なんていうと、ちょっと怪しげですけど、その線ではなくって、その正体はベンチなのです。
実はこの春にオープンする六本木ヒルズの一角に11名のデザイナー、建築家、アーティストがパブリックアートをベンチとしても機能するものを制作したのです。で、私がデザインしたベンチは、河原での思い出をもとにして形にしたということなのです。
緩やかな曲線と丸みをおびた塊がポコペコしてる全長7メートルの作品です。制作は千葉の市川の山の中にある工房で3カ月ほどかけましたが、仕上げは現場に持ってきてから行いました。ベンチを設置した辺りは新しい道の歩道なのですが、まだ工事中の店舗、ホテル、映画館などがあり、なんだか映画のオープンセットのような状況でした。しかし公道なので歩行者たちはもうその新しい道を通
っているのです。
私が表面のペインティングの作業をしていると、色々な
声が聞こえてきます。「なんだろうこれ?」「描いてるよ」「いつできるんだろう」「座れるんじゃない」などなど。そんな中、しばらくジーと見ている老夫婦がいました。ちょっと手を休めて「ご近所ですか?」と聞くと「はい、もう50年になります、楽しみにしてます、出来上がったら座りに来ます」。
この人たちは色々変化してきた六本木を見てこられたんだろうな、と思いつつ、私は河原を思い出しながら作業を続けた。
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